ヘアースタイリングのプロ-002(オフセット)

 

私が開発を管轄した頭部形状計測復元システムは、

実は既に、男性用かつらでは前例が有っての事で、

実際にはリプレイスでした。

 

但し、日本全国の男性専門店舗に設置された計測機と、

東南アジアの製造工場に設置されたマシニングセンターを

総て入れ替えたうえで、グローバルな範囲でのシステム開発を

伴うプロジェクトでした。

 

プロジェクトの効果発動で、店舗での計測が短時間に簡単に

出来るようになり、計測機も手動で移動可能になりました。

製造工場のマシニングセンター側では処理能力が5倍になりました。

 

この為に、今度は女性用かつらをこのシステムに載せるようにしました。

男性の場合は毛髪が非常に少ない頭部にスキンネットを被せて撮影しますが、

女性の場合は、毛髪が有る上にかつらを載せるので、

男性用のスキンネットが使えないのでした。

この為に、優秀な開発要員と共に、女性用スキンネットの開発をしました。

 

スキンネットを被せる理由は、計測時の半導体レーザ反射方式では、

スキンネットならば反射するので計測可能だからです。

黒色の毛髪は電磁波を吸収するので、反射計測が出来ません。

 

せっかくの開発チャンスなので、縫い目の無いスキンネットを作りました。

男性用の薄手のスキンネットでは、毛髪の弾力を抑えられないので

少し厚手のスキンネットになりました。

 

問題はここからです。

男性用の撮影時には、撮影されたデータを全体的に1㎜縮尺します。

これは、頭部に被せたスキンネットの厚みと遊び部分を縮めて

ピッタリフィットしたかつらを作るという理由からです。

これを「オフセット」と言います。

 

今回の開発時にはオフセット値を+0.01~+無限大、-0.01~-無限大にしました。

これまでの慣行で男性用は-1でしたが、今回の女性用をどうするのか?

男性用スキンネットの広げた時の厚みが0.1㎜程度で、

女性用スキンネットの広げた時の厚みが0.3㎜程度です。

但し、女性の場合は毛髪がある上に装着しますから、

それほど神経質にならなくても良いかもしれません。

 

もちろん自らの装着するかつらで、+2,+1,0,-1、-2 

の5種類を試しましたが、何らの違いが感じられませんでした。

マネキンの頭で、同様に+2,+1,0,-1、-2の5種類のデータから

5種類の形状復元にてマシニングセンターで切削し、

そこにプラスチック板を熱して形状取りしたキャップと

マネキン頭部をすり合わせましたが、-2だけが小さすぎてダメでした。

 

そこで、技術プロ集団の出番です。

選抜された女性5名の頭部形状計測後に、+2,+1,0,-1、-2 

の5種類のかつらを実際に製作しました(25台作りました。)

どれがどれだかわからない様にこちらで番号を付けて、

装着感のアンケートをとりました。

 

ここでまたしても、装着感のプロ感覚に驚きました。

5名全員が、+2と-2は、完全ダメとの判定。

最も良いのが0で、+1と-1は許容範囲との事。

5名全員が全く同じ意見を出してきました。

美妙な違いしかありませんが、そこを判別できる能力が凄いです。

それも5名全員が、ひとつも外すことなく当てています。

こんな凄腕プロ集団が顧客のスタイリングに真剣に取り組んでいます。

 

これにより女性用かつらのオフセットは0に決まりました。

但し、個人の好みに合わせてオフセット調整は可能にしてあります。

この程度の汎用情報ならば公開しても問題無いと考えて

発信しています。

実は、公開できない企業機密が他にもたくさん有ります。

知れば知るほど奥が深く、職人技の世界に入ります。

 

たかが「かつら」ですが、職人的感性を持って、

とことんこだわって造る「かつら」は、芸術品です。

市販品の「かつら」には無い価値を持たせる為の

裏方での研究と莫大な投資が有ります。

 

薄毛を心配して、初めて相談される場合には、

やはり大手のメーカーを訪ねることがお勧めです。

初めは無料で対応してくれますし、

わがままを聞いてくれる上に、秘密厳守してくれます。

 

写真は、厚手の縫い目無い女性用スキンネットを使用して

最新の画像処理システムで3次元データを作成しているところ。

大型計測機がスマホに置き換えられそうです。



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